電子マネーが日本に初めて登場したのは1990年代半ば。日本各地で実証実験と称し て、金融機関各社がICカードを使って電子マネーの実験を始めた。当時の電子マネーは 一般には馴染みがなく、実験を行っている側も、いったい電子マネーはビジネスになるの かどうか皆目わからない、といった状態だった。
それから約十数年を経て、日本でこれほど電子マネーが流通するとは、誰が予想しただ ろうか。しかも、電子マネーの種類は一種類ではなく、Suica、Edyといった既に メジャーになっているもののほか、各地域で展開されている電子マネー、インターネット だけで使える電子マネーも合わせると、50種類は下らない。
ピッとかざすだけで簡単に支払いができる電子マネーは、「これは電子マネーだ」など と考える間もなく決済が終了する。さらに、利用すればするほどポイントが貯まるものも あり、多くの利用者は電子マネーを「かざして使ったらポイントが貯まる便利なカード」 程度にしか考えていないのではと思う。しかし、これが現在の電子マネーの市場を大きく した理由である。日本でこれだけ電子マネーが普及してきているのは、利用者に「これは 電子マネーである」などと大上段に構えた告知方法をとらなかった、電子マネー発行企業 の戦略、そして、かざして使うことができる非接触ICカードの登場といった、技術革新 の結果であると言える。
市場で急速に普及しつつある電子マネーだが、様々な企業がいろいろな電子マネーを発 行していることで、市場や利用者は混乱もきたしている。それは、現在の電子マネーが、 企業のビジネスツールのひとつであり、国内の決済システムを支えるという決済インフラ や社会基盤としては、まだ十分に機能していないからである。
ここでは、決済システムとは何か、電子マネーの発行を支える技術、なぜ企業が電子マ ネーを発行するのかといった、ビジネスモデルや戦略などの面から、電子マネーについて 解説する。
○七年のPASMO導入ステージでは、オートチャージは私鉄各社にとって差別化の最重要ポイントであることは間違いない。それはユーザーの囲い込みが出来るからだ。
そもそもユーザーは気まぐれである。あるひとりのお客さんが、昨日その店で買物をしたからといって、今日も同じ店で買ってくれる保証はない。しかし、お店としては、そのお客さんに明日も来て欲しい。いったいどこに住んで、年齢はいくつで家族は何人なのか、顧客情報は重要だ。それがあれば、気まぐれな顧客が買いそうな商品を予測でき、売上を増やし、在庫リスクを軽減できる。だがその思いとは裏腹に、いま目の前で買ってくれたお客さんは誰なのかわからないのが現実だ。